昭和の忘れもの。

1960年生まれの青ん坊語り。

映画「あん」レビュー(ネタばれ少々あり)

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先日、河瀬監督最新作の「光」を観てとてもよかったので同監督の前作「あん」をNetflixで観た。

 

「光」についてはこちら。

 

aonbo.hatenablog.com

 

今回は少しネタばれがあることを先に述べておきます。具体的なネタばれは冒頭場面の説明程度です。ただ、描かれている内容の核たるところ、テーマについて書きましたので、映画「あん」について興味がある方は先に観てからこのブログを読まれることをオススメします。

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桜並木が満開な住宅街の一角。

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ゆっくり歩く老女。

樹木希林さん演じるこの老女(徳江)が桜の花を仰ぎ見ている様はなんともいい絵だ。

少しさびしく、少し切ないピアノの調べ。
(監督はきれいなピアノの曲が好みなんですね)
ヨーロッパ映画のような作り。きれいな春の場面。

 

町角の小さな「どら焼き屋」さんの店長のところに「働かせてほしい」と老女がやってくる。

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そこから“店長さん”と“老女”の交流が描かれていく。


題材としてはとても重い部分がある。

けれど、この老女、店長、そして高校に進学する気のない女子中学生の合計3人のそれぞれの「自由」がテーマである。もう少し言うと「不自由さ、囚われからの脱出」とでも言おうか。

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「自分はこうありたい。だけど許されない社会」が目の前にある。


囚われの中にいるのはつらい。外に出るのは大変だ。大変だけれど外へ出るんだ。自由になるんだ。自由はいい!と言う思いが観ているこちらにやってくる。

 

老女は50年以上囚われて生きてきた。

店長は数年囚われていたし、そこから出ても自由はなかった。

女子中学生は、今自分が自由じゃない、囚われているのを感じた。

こんな3人が3様に自由を求めて動き出す。

 

徳江がドラ焼きの中にある「あん」を作る。

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お店の中で煮ている小豆が「どんな旅をして、どんな日々を経てこの店に来たのか」を小豆から聞くんですと語る老女。

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カゴの中の小鳥の声に耳を傾ける老女。

冒頭の桜の木を仰ぎ見ていた老女は桜の声を聞いていたのだろう。

 

 

全体を通して、先に観た河瀬監督の最新作「光」同様ゆっくりな運び。


ドキュメンタリー映画のような会話。


出演者の好演。すばらしい映像。印象的な会話と絵。

河瀬監督のタッチ、切り取り方、好きです。

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※この場面すごくよかった。

 

個人的には、絶望の闇の先に見える「光」を描いた「光」の方が好みだけれど、「光」の場合は、認知症の親の介護やだんだんと自分の能力が失われていく様など、若い世代にはピンと来ないところもあるかと思う。しかしその分、私のような50後半の者には生々しくて重い。つらい。

 

逆に「あん」は、誰が観てもつらい半生を生きた老女を描いた分、そのつらさに「わかりやすさ」がある。これは世代を超えた老若男女に響く話だと思う。

 

ただ、「この人は過去に何があったの?」と言う疑問から「実はこういう人だったんです」という流れで話を進めていくと「あー、なるほどね」で終わってしまう部分がどうしても出てくる。それが残念だ。

 

推理小説などで、犯人とそれを追う探偵だけがわかっている部分をお客に種明かしして終わる手法は、その内側にあるものが薄れてしまうような気がする。種を明かして納得させることに主眼を置いてたわけじゃないのに。。

 

描きたかったのはその内側なわけで。

 

そういう点から考えれば、これは差別や抑圧に主眼を置いたものでもない。(もちろんそういう面多々あるんですけど・・社会派の映画じゃないわけで)

 

誰もが何かに囚われているけれど、自由はいい。誰でも自由になれる!自由に生きよう!という、原作のドリアン助川さんの熱なんだと思う。

 

先にも書きましたが俳優さんたちの好演、カメラワーク、それから、もちろん脚本、流れ、BGM、編集(間というか、時間の取り方)などなど、すべてにおいて秀逸です。何より丁寧にしっかりと作られている作品だと思います。

 

それにしても希林さんの演じる「徳江」の表情・声は特筆ものです。

(これは「光」のラストでもじゅうぶん伝わってきた)


こういうお婆ちゃんが自分の知り合いにいたかのような存在感。

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※希林さんじゃなきゃ出ない味。

彼女無しで撮ることは考えられないほどの監督の惚れ込み様が伝わってきましたw

ドリアン助川さんからの要望がキッカケでキャスティングされたようです)

 

河瀬監督、熱いですね!