パワー・オブ・ザ・ドッグ 観了。Netflixな休日。
アカデミー賞作品賞ノミネートされていた。
このポスターから想像するような西部劇ではない。
主な人物としては4人。
画像の中央の二人が牧場経営している兄弟。
序盤、その弟が子連れの未亡人と結婚するところから、何かのバランスがくずれていく。
兄は「女なんてやりたいなら、いくらでもいる」と言い
弟は「一人じゃないってなんて素晴らしいことなんだ」と愛をはぐくむ。
中盤すこし冗長な感じもするが、謎めいた部分(不安?不穏?)がこちらを惹きつける。
◇このマッチョなカウボーイの兄の印象が変わる。
はじめは若い荒くれ者たちを力ずくでまとめてきているような職人の親方みたいな感じだけれど、その印象が変わる。
弟は兄へのコンプレックスで生きてきたようだけど、それも変わる。
後半に向けて4人の関わり方が変わってくる。
最も距離が離れていた連れ子の青年と、牧場主の兄が「秘密の場所」をキッカケに急接近する。
この連れ子の青年。
線が細くて、内向的で、どこか危ない青年。
青年の思いが見えないまま物語は終盤へ。
大きなアクション場面も無いまま、衝撃的なラストへ。
劇中、兄の言動のそこかしこに出てくる「男性は女性より上(崇高なのだ)」という偏見。その偏りがどこから、何からきているのか?
そして、聖書に書かれているパワー・オブ・ザ・ドッグの言葉。
ラストにきて、冒頭を思い起こす。
「あぁ、、そういうことか。。」と2時間見た場面を振り返る。
日本のTVドラマのような「セリフによるおせっかいな説明」が無いので、緊張感を持って観ていないとわかりづらいかもしれない。
言い換えれば「必然性が伝わらない」かもしれない。
逆に映画通はディテールからとても楽しめるでしょう。
(かくいう私も見逃しているディテールがたくさんありそうです)
取り上げたテーマは重く、社会的でもあるけれど、4人の心情描写は必然性に満ちていて、スッと入ってきたので、こんな感想になってしまった。
いやほんと重い映画だった。
総じて絵(カメラ)がとてもよく、美しい自然と細やかな演出はひとえに監督の手腕のような気がします。好みの映画ではなかったけれど秀作。
「けものみち」1982年 NHK再放送
再放送ながら夜中だったので、NHK+で。
松本清張原作「けものみち」から3時間ほどのドラマに仕立てられた作品。
ひとことで言うなら、傑作。面白かった。
旅館の中居をしながら、半身不随の夫を世話している民子(名取裕子)という女性が、小滝(山崎勉)に出会ってから政財界のフィクサー(黒幕)の愛人(玩具)となり、そして小滝の言う「けものみち」から「幸せな未来」に向かう女の顛末。
時代がオリンピック前の昭和37年で、高速道路公団の天下り連中の話が生々しく絡んでくる。
黒幕の鬼頭(西村晃)は若い女性を軟禁状態にして飼っては、財産の一部を譲って解放するという色ボケした闇の大物(まぁ、大金持ちのスケベじじぃ)。
民子を執拗に追いかける刑事に伊藤四郎。いい味。
NHKにしては濡れ場たっぷりで、和田勉の本領発揮と言ったところ。
当時は新鋭の女優として、体当たりの演技をした名取裕子は正直上手くはないけれど、魅力的で、セクシーで、かつ、だんだんとふてぶてしくなっていく様がいい。
このカットの表情最高!
劇中、クールで頭の切れる小滝が言う「私はあなたを愛してしまった」のセリフがジェームズ三木と和田勉の作った最大の見せ場。(原作とはちょっと違う)
舞台の一部となったホテルはホテルニュージャパンらしい。
小滝(山崎勉)がなんとも謎めいていて、彼の野望は何だったのか?は最後までわからない。
劇中で黒幕の鬼頭が小滝に”無理”を言っても丁寧に断る場面で
「あいつはスキがない。CIAか?ヤツの身上を洗いなおせ」と小滝の評価を変えるところ、、いいなぁ。。
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昭和から平成、令和となっては満州の話も、戦後の企業買収(株買い占めによる乗っ取り)の話も、総会屋とか、やくざの抗争の話も、ほとんどの人が知らないか、興味を持っていない。
ましてや「戦犯」「東京裁判」「反共」「逆コース」なんてワードで反応するのは私を含めた還暦以上か、ネトウヨなどとSNSで呼ばれている?人たちくらいしかいないような気がする。そんな昭和の裏社会のお話。
まぁ、「けものみち」はいろんな人に見てほしい傑作でした。
「砂の器」「天国と地獄」の次くらいかな??
※昭和40年に池内淳子と池辺良で初映画化されているのも観てみたくなりました。
博士と狂人 Netflixにて鑑賞
2020年劇場公開の映画を2022年初春の休日に鑑賞。
オックスフォード大英辞典の編纂(へんさん)にまつわる実話に基づいたもの。
数年前に観た「舟を編む」みたいなヤツ?くらいの気持ちで見たが、、だいぶ違った。
物語の始まりは狂人と呼ばれる元軍医ウイリアム・C・マイナーが起こす事件から始まる。
かたや、アイルランドで貧しい暮らしをしている独学の言語学者マレーがオックスフォード大学の辞書を作る編纂責任者として就任する。
この二人に共通するものがわからないままストーリーは進む。
(前半途中で、どうやって2人が結びつくんだ??とドキドキしながら見ました)
そして出会い。
この出会いのシーンで涙もろい私はすでに涙腺崩壊。
ちょっと興味のある方はぜひ観てほしいので、ネタバレは無しにしておきます。
マイナーと、事件の被害者の遺族(妻と子どもたち)のエピソードもよかった。
夫を殺された妻イライザを演じるナタリー・ドーマーの目力に吸い込まれます。
一部、目をそらしたくなるような残虐な場面も少しありましたが、ヒューマニティあふれる秀作でした。
個人的には「本を読んでいる時だけ、追われずにいられる」と言う狂人のマイナーに感情移入してしまって、つらいシーン多かったですが。。
しかし男の嫉妬ってのは、いつの時代もどこの国でも嫌なもんだなぁ。。
何十年かけて辞書の編纂を成し遂げた史実に基づくお話でした。
※メル・ギブソン、ショーン・ペンはじめ、脇役も素晴らしいです。
※監督、脚本もさることながら、美術(とりわけ衣装)よかったなぁ。
うーん、、かなり重いですよ、、ずしーんときました。