あっかんべェ一休
とんちで有名な一休和尚の半生記。
彼の出生~禅を学ぶ修行僧時代が上巻で下巻は独り立ちしてから大往生まで。
天才世阿弥の芸に対する苦悩が並列して描かれているのもまたおもしろい。時代の庶民の様相を交えながら描いている力作。
あの梅原猛氏の仏教に関する書物を初めとして膨大な量の書物から出展されていることにも驚かされるが、著者の持つ無常観や人生観がこれほど如実に現れているのもめずらしいように思う。
下巻まで含めて、一貫した一休和尚のまっすぐな知的さが肌に伝わってくる。「とんち」と聞くと現代では上げ足取りやダジャレのようにも思えるかもしれないが、この話は一気に内側に(哲学へ)向かうシリアスなエピソードである。
特に破天荒でロックンロールな?一休和尚の言動には含蓄があり、是非ともゆっくりと読んでほしい一品である。
「欲深くなってはいけないということ」を忘れろ!「それを忘れなくては!?」という心を忘れろ!なんてことを考えてる「自分を忘れろ!」
ときます。
そんな禅問答の一片もとてもおもしろかった。
また実際に彼が詠んだとされる詩も随所にあってそれがまたいい。
坂口氏のマンガはいつも良質な文学を読んだような気持ちになる。
バージョン
1989年に描かれた坂口氏の長編3部作のうちのひとつ。
“我素”と呼ばれる進化と学習を続けるバイオチップ。
それは人類総体の意志を持つひとつの生命体。人類の過去すべてのデータを学習した我素が啓示を出すがごとく発する21の歌とは?そして“私”とは?“私たち”とは?
あのAKIRAに登場する鉄雄、ネットと融合する草薙素子の原型とも思える人物が登場している。 AKIRAファンはあの乗り物にもニヤリとするでしょう。
持っていかれますね。
話に力があります。
ラストは作者らしいファンタジックな演出により深く重いテーマも後味よく締めくくられている。
芳醇で重たいフルボディの赤ワインをゆっくりと飲み干した感がある。
さすが坂口氏。
そして
石の花
80年代中頃に書かれた大河ドラマ的漫画。第二次大戦中のナチス政権に侵攻を受けたユーゴスラビアが舞台。時代の濁流に翻弄されながらもまっすぐに生きる青年の姿。兄弟の出生とそれぞれの生き様。国のためって何だ?平和って何だ?と胸に深く刺さるストーリー。主人公のラストの語りかけはしみじみ泣ける。
坂口氏は「魚の少年」のような短編のファンタジーにも秀作が多いが、この作品には長編の重さ、深さはまさに超1級品。ヨーロッパ映画の秀作、ロシア文学の名著、はたまた重奏低音流れる近現代クラシックをゆっくりと堪能したかのような作品だと思う。
本当の意味での「教育の大切さ」が問われている。
石の花 全5巻 完結セット(文庫版)(講談社漫画文庫) [コミックセット]
- 作者: 坂口尚
- 出版社/メーカー: 講談社
- メディア: コミック
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